スピッツ「ひみつスタジオ」の全曲感想 ~美しく優しいオバケのロックバンドの『今』~

 みなさん、こんにちは3度の飯より、面白き今にありつきたいLac-Qです。

 さて、2023年5月17日についにスピッツ17作目のオリジナルアルバム「ひみつスタジオ」が発売されましたね!!私自身本当に心待ちにしている作品でした。スピッツを聴き始めてからは「醒めない」「見っけ」に続く3作品目の出会いになります。
個人的には「見っけ」以上のワクワクをもらった作品でした。きっとスピッツの秘密を知ったみなさんも誰かと秘密を共有したいと思っているところではないでしょうか笑。

 暖かい贈り物をもらったような、可愛いぬいぐるみを抱いているような安心感のある世界でした。ハズレはなく、暴力もなく、別に昔から「優しいスピッツ」はそこにいました。「物足りない・・・」という気持ちもないわけではないですが、「そんなのいいからとりあえずスピッツ聞こうよ」となる感じです。

 そんなわけで、全曲くまなくさらって感想をさくっと『フリーハンドで』書いておきたいと思います。ちなみに私はまだ4周目程度の聞き込みなので、インプレッションpart1ぐらいだと思ってください。好きな曲とか感想は変わるかも・・・笑。まだ聞いていない方は是非、聞いてください。

(2023/09/18 著作権の観点から公式動画の埋め込みを削除し、リンクに変更しました。ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。)

目次
・可愛くありたい・優しくなりたい、さわやかなスピッツ
・オバケの懐の深さ、ジャンルの広さはどこから?な盛り上がり
・ときめいて、めぐりめぐって、次の場所へ連れて行く
・まとめ

可愛くありたい・優しくなりたい、さわやかなスピッツ

曲順にいくつかの(私的)ブロックに分けて書きますので、好きなブロックからでも読んでください。

M1 i-O(修理のうた)

 「鰭」(ひれ)しかり、読みにくい曲名ですが、「アイオー」と読むみたいですね。Spotifyで配信されているLiner Voice+(以下、ライナーボイス)では仮タイトルが「アイオー」で、正式タイトルが「修理のうた」だったのですが、「アイオー」の響きが気に入って折衷的な曲名にしたそうな。アルバムの中では最後に収録した曲のようです。

1曲目ということもあり「ひみつスタジオ」の世界観をそのまま表す曲だなぁと。「愛をーーー」が気持ち良い。全体的な感想にもつながりますが、音に対する「言葉」の詰まり方がこれまで以上だなと思いました。つまり、言葉がギュッと詰め込まれている印象で、リズミカルだと感じています。「同じ荒野を〜」とか。

M2 跳べ

 「紫の夜を越えて」と同じタイミングで録られたというアッパーな曲です。セルフアレンジというだけあってスピッツの「ロック」が前面に出ていて好きですね。「グリーン」や「悪役」など、どうしてこんなに若々しい歌が自然に歌えるのでしょうか。「歳に応じて変化してきた」というのは草野さんがご自身で認めてるところですが、それでも聞いている側からしたら、まだまだ「若スピッツ」は健在だと思わされます。「メーター上空っぽ」とか「七通りも」など言葉も小気味良いです。

M3 大好物

MVはこちら

 私としては、本当にここ5年ぐらいでもっとも好きな曲かもしれません。「君の大好きなものなら 僕も多分明日には好き」、この歌詞の可愛らしさにやられてしまいます。リズムやキーボードのコンスタントな音色、そしてサビのコーラスの効いた伸びやかなギターと、「音楽」として楽しい曲でもあります。

正真正銘のポップで、明るい曲ですが、スピッツらしい哀愁もあり、このひみつスタジオにとって「アルバムの世界観をはっきりとさせ、他の曲を支える『背骨』」のような曲だと思います。

 「大好物」リリースのころにこんな記事も書いてますので置いておきます。「猫ちぐら」は収録されないのでは?という予想当たりましたね。

M4 美しい鰭

MVはこちら

 詳しい感想はこちらにあります。シングルで聴く時は「コナンの曲」という印象が強いですが、こうアルバムの中にあると、なんと「優しい」曲なんでしょうか。サビの心地よいギターのささやきも好きですし、曲を包み込み彩るホーンセクションも、ひとつ前の「大好物」のキーボードと対比する形で奥行きを感じます。

 ちなみにライナーボイスによると「鰭」の漢字は誰一人読めず、草野さん曰く「『ヒレ』だとお肉っぽいし、ひらがなもローマ字も違うし」ということで感じの「鰭」になったそうです。コナンに関連して「しずくの小惑星」を「小学生」と聴き間違えていたのは田村さんと亀田さんだそうです笑。

M5 さびしくなかった

 クリント・イーストウッド監督の「ヒア アフター」の一人で食事するシーンを思い浮かべて作った曲だそうです。優しい曲だなぁと聞いていて思います。「君」の存在で孤独が逆にさびしくなってしまったという曲だと思いますが、孤独の怖さとそれでも手に入れた暖かさが曲調から生に感じます。「鈍感は長所だと笑う」という歌詞が少し痛々しくてでもぬるい空気感もあって、好きな部分です。ひかえめな自虐を感じる歌詞は等身大で印象に残ります。

オバケの懐の深さ、ジャンルの広さはどこから?な盛り上がり

M6 オバケのロックバンド

 発売前からさんざん話題になってましたね笑。こちら全員ボーカルの曲でした。聞いてみるとスピッツのロックンロールが素直に出ていながら、サビはまさに「SMAPライク」な印象です。一応、ソロの順番を整理すると、草野さん→﨑山さん→サビ→田村さん→三輪さん→サビです。初めて聞いた時、まず﨑山さんのソロが始まった瞬間に笑ってしまって。でもサビを聞いているとスッと歌声が入ってきて、にやけながら涙目になっている自分がいました。MVも本当に可愛いんですよ。「こんなに仲の良いおじさんがいるか?!」という感じ。そして「私たちは何を見せられているんだ?!」という感じ。

 歌詞もロックバンド・スピッツを意識していて、「毒も癒しも 真心こめて」だったり「トゲばったハードロック 本当はラブソング」というフレーズが本当に感動的で、あーそうそう!と私たちが共感してしまいます。30年以上いちゃいちゃしながら活動続けるまさしく「オバケのロックバンド」なのです。余談ですが、インディーズの楽曲「こどもオバケ」にAメロが酷似しているとかいないとか・・・。

M7 手鞠

 ハイ、一度聞いてエモ確定、今作の私のMVPナンバーです。一度聞いた時からこう頭の中に「シュワシュワ」した淡いソーダのようなイメージと跳ねる手鞠の姿が浮かびました。色は水色ギターのアルペジオとボーカル、コーラスの厚みが炭酸のような泡感があり、サビのドラムのリズムが「跳ねている」手鞠を作っているのだと考えています。サビのメロディの高い部分も気持ちいい。ライナーボイスで「今のスピッツっぽい歌詞」と聞いて納得しました。だからこんなにもアルバムに馴染んでいて好きになれたのだと。

M8 未来未来

 民謡との融合がどんなもんかと思っていたのですが、予想を裏切られました。もちろん良い意味で。「未来未来」はひみつスタジオのハードな一面を支える、アクセント、七味のような曲だと思います。サイバーパンクを意識しているとロッキングオンのインタビューでも語っていましたが、私の引き出しの中で言うと「AKIRA」の「ネオ東京」の世界でした。ベタな着眼点ですが、「未来」「時代」「君以外」という押韻がクセになる。ライブが楽しみな曲でもあります。

M9 紫の夜を越えて

MVはこちら

 アルバムの構想が決まる前に録った「紫の夜を越えて」です。歌詞はコロナを意識した、励ましであり、記憶(メモリーズ)でもあります。発表当時、「NEWS23」のタイアップ当時は「今を乗り越えていこう」という応援歌のような受け取り方をしていたのですが、今回改めて聴くと、もっと前向きなっている自分がいました。「『紫の夜を越えて』きたかもな。くぐりぬけてきた、俺たち頑張ったよね、ここ数年」というより進んだ感情になっていました。アルバム的にも山場だと思います。ここまで、「オバケ」→「可愛すぎソーダ」→「ネオ東京」→「コロナ禍のザ・スピッツ」という流れで、スピッツという惑星の広さ、深さに驚くと共に、この曲がこの順で並ぶことが「今」のスピッツなんだと思っています。飽きないよね。

ときめいて、めぐりめぐって、次の場所へ連れて行く

M10 Sandie

 この曲はファンクラブライブアリーナ4列目(という奇跡の座席)で聞いていた曲ですが、音源ではちょっとチープなホーンが入っていてやっぱりこれも「可愛い」ですよね。「虎の威を借るトイソルジャーたち」「新宿によく似てる魔境」等、言葉の詰め方がこれも良いです。

 「Sandie」というのは60年代後半に特に活躍されたイギリスのシンガー“Sandie Shaw”(サンディー・ショウ)さんのことで、仮タイトルがそのまま採用されたようです。サンディー・ショウさんの「Tomorrow」という曲のリズムに影響を受けています。「明日から」という歌詞も影響かと思います。知りませんでした。アルバムで聴いた時の印象は最近聞いていたビートルズの「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」でした。どちらも60年代後半のポップスということで当たりにしてください。

M11 ときめきpart1

MVはこちら

 ときめいた最初の瞬間を描いているのでpart2はないそうです笑。最初、映画の予告で聴いた時は「うわー、いい曲」でした。でも、CDTVライブ!ライブ!でフルで聴いた時は、正直「地味な曲だな」と思ってしまいました。しかし、こうアルバムの中であるいは公開されたMVで聞き込むと、なんとまぁ馴染むと言うか何回も聞きたくなるような曲です。

映画の主題歌としてどうなのかは見ていないのでわからないのですが、少なくともアルバムのこの位置にあるとき、十分そのときめきと幸せを届けてくれるものでした。どこか儚げでもポジティブな歌です。流れるバイオリンが綺麗ですね。ライブではどうなってしまうのでしょうか。まさかクージー先生???!(「優しいスピッツ」でフルート吹いてて感動した笑)

M12 讃歌

 「未来未来」が民謡なら「讃歌」は讃美歌です。事前に民謡であったり讃美歌であったりという話はありましたので、気になっていましたが、こうも自然にスピッツに溶け込むのは尊敬以外の何者でもありません。なんだかんだバンドサウンドになってますよね。「讃美歌」というエッセンスに飲まれていないというか。「ナンプラー日和」「エンドロールには早すぎる」よりも露骨ではなく、でもしっかり要素を感じられるのが個人的は面白いなと思った点でした。

草野さん曰く「これでもかというカノン進行」とのことで、コーラスもあいまって神聖ですよね。2000年台のスピッツでは感じられないようなオーラを纏っています。歌詞は説明するだけ野暮ってものです。ラララを会場でやる日を夢見ています(でも、そんなバンドじゃないかとか思ったり・・・)

M13 めぐりめぐって

 「オバケのロックバンド」もそうでしたがスピッツの新しいモードとして「メタ」だなというところです。こんなに自分たちを表現した曲がこれまであったでしょうか。「こんにちは」も同じような感じです(アルバムの最後の曲だし)が、よりオープンでメタです。

「1987→」よりも今のスピッツに寄り添っていて「ルキンフォー」のようにはぐらかしてはおらず、「トンガリ’95」ほどトガっていない笑です。タイトル回収もしていますし、実質的なタイトルチューンだと思います。ロゴの「デコポン」も回収してるし。ショーの始まりにふさわしい曲調と歌詞で、ワクワクが高まります。

あえて、最後の曲にするというのがまた憎くて、もう一周したくもなるし、ライブにも行きたくなります。やっぱりスローダウンもスピッツらしくなくて新鮮でいて、ドラマチックだーー。

まとめ

・可愛い、優しいが詰め込まれた「今」に寄り添うアルバム!

・個人的MVPは「手鞠」、シュワシュワ

・聴けば聴くほど馴染む

まとめるとこんな感じでしょうか。一見地味な印象を受ける曲もあるのですが、やっぱりそれでもスピッツというか、「ロック」だとか「ポップ」だとか「死とセックス」がなんだとか、そんなことがどうでも良くなってくるアルバムでした。4周でこうなんだからもっと聞き込めばもっと生活に馴染むアルバムだと思います。コロナ禍〜アフターコロナそして、未来未来へと光を差すような、「今」を大事にできる作品です。じゃあ10年後古臭いアルバムになるかと言われると・・・そんなことないと思いますよ。だってスピッツですから。

あと余談ですが、ファンクラブ会員先行、一般抽選全て落ちました。平日の仙台恐るべし。というか、今回コロナ明けの需要もあり、絶対倍率えぐい。別にファンクラブ会員が偉いわけではないですが、欲しいよね泣。(Lac-Q)

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